デジタル手続き法案で本当に利便性が向上する? | 内容をまとめ

デジタル手続き関連法案まとめ

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2019年3月15日、行政手続きを原則オンライン化する「デジタル手続き法案」が閣議決定され、国会に提出されることになりましたね。

以前からデジタル化ということは頻繁に言われていて、最近流行りの「○○ファースト」に絡めて「デジタルファースト」などという言葉も耳にする機会が増えました。

今回の「デジタル手続法案」というものがどんな内容になっていて、どれだけ社会の利便性向上が期待できるのか考えてみました。

目次

デジタルファーストとは

そもそも、今回のデジタル手続法案が世間で言うところの「デジタルファースト」ということになるのでしょうか。

コトバンクには次のように解説されています。

デジタルファースト
従来、印刷物として提供されていた新聞・雑誌・書籍を、初めから電子出版の形式で提供すること。電子書籍のみで提供される場合と、のちに印刷物として出版される場合(ペーパーレイター)がある。→ボーンデジタル

引用:コトバンク

デジタルファーストは主に出版物のデジタル化についてのことで、今回のデジタル手続き法案とは少し違うようですね。

デジタル手続き法案の内容まとめ

ここからは、「デジタル手続法案の概要について(内閣官房 提出資料)」をもとに整理していきます。

まずは、情報通信技術を活用した行政の推進の基本原則は次のとおりです。

  1. デジタルファースト
    個々の⼿続・サービスが⼀貫してデジタルで完結する
  2. ワンスオンリー
    ⼀度提出した情報は、⼆度提出することを不要とする
  3. コネクテッド・ワンストップ
    ⺠間サービスを含め、複数の⼿続・サービスをワンストップで実現する

⾏政⼿続のオンライン原則

今まで窓口で書類を提出することが原則だったことから、オンラインでの手続きを原則にしていこうということですね。

本人確認手数料の納付もオンラインで完結できるようにするということで、実現できれば利便性はかなり良くなりそうです。

もちろん、書類には添付書類などが必要な場面がありますが、添付書類を撤廃することも考えられているようです。

その場合には、マイナンバー制度による役所間の情報連携という形で情報を入手することになりそうです。

印鑑なども必要でなくなっていくことが予想されますが、そもそも既に役所に提出する書類でも本人確認がしっかりとできていれば印鑑は不要ということも多くなってきていますね。

不動産登記など実印が必要な書類についても不要になるかは現段階では不明ですが、安易に不要としてしまって大丈夫なのか心配は残ります。

オンライン手続きの原則化について「地⽅公共団体等は努⼒義務」になっていることに注意が必要です。

情報通信技術の利⽤のための能⼒等の格差の是正

今ではデジタルネイティブと言われる世代が増えてきていますが、高齢者の方などパソコンやスマホなどを苦手をされている方も多くいらっしゃいます。

高齢者の方などで、なかなか役所に行けないという人にとってオンライン手続きは有効に見えますが、実際のところオンライン手続きできないということも考えられますよね。
そこで、オンライン手続きに関する教育や助言などをすることでパソコンやスマホが苦手な人にとっても利用してもらえるようにしていくということのようです。

ただ、現実的に高齢者の方にどこまで手当てできるのか疑問があることと、デジタルネイティブと呼ばれる人たちのネットリテラシーが必ずしも高いとは言えないのではないかという懸念もあります。

行政手続きと言っても種類が多いので、どこまでサポートできるのか

民間手続における情報通信技術の活用の促進

大手のメディアなどでも、今回のデジタル手続き法案の話が出たときから「契約のデジタル化」などについて言及されてきました。

今回のデジタル手続き法案にも、法令に基づく⺠間⼿続についてもオンライン化を認めるものが出てくると書かれていますから、早い時期に法整備される可能性があります。(書面に印鑑を押すということ以外に証拠能力のある手段を定めるということなのでしょうか)

マイナンバー制度の利用場面の拡大

先にもお伝えしましたが、オンライン手続きによって添付書類が不要になるといっても、必要な情報がなければ手続きすることはできません。

現在でもマイナンバー法に規定されている事務ならば役所間での情報の受け渡しが許されています。

マイナンバー法が施行されるときには、この点についても反対の声があったと思いますが、さらに範囲が拡大されるということです。

利便性とセキュリティは相反する関係にありますから、市民としても本来は利便性だけでなくセキュリティということにも注目すべきだと思います。

今でも電子的な方法の商取引はありますから、あとは社内や世間での契約の信用性や証拠能力が課題になるのでしょう。

日本の行政は本当にデジタル化が遅れているのか

行政のデジタル化の話題になると必ず出てくるのが、「日本の行政のオンライン手続き状況は経済協力開発機構(OECD)加盟国中の中でも下位の方だ」「日本は遅れている」という発言です。

しかし、早稲田大学電子政府・自治体研究所が、国際 CIO 学会傘下の世界主要11大学と提携して、電子政府進捗度を調査・研究した結果は、順位こそ下げているものの65カ国7位と健闘しています。

判定方法が違うにせよ、実際のところどっちが本当かわかりません。

そして、行政のデジタル化が進んでいないことは「遅れている」という表現が本当に正しいのかも疑問です。

デジタル化が進まない原因は、日本の行政の手続きが他の国と比べて厳格であったり、より細やかなことまでしているからかもしれません。
にもかかわらず簡単に遅れていると表現する人は何を競っているのかと思ってしまいます。

デジタル化が進むことによって、もし今よりも低い行政サービスしか受けられなくなるとしたら、私はデジタル化の順位が低くてもかまわないと思っています。

印鑑がなくなるという話も、中国や日本には昔からある文化で、「文化は残さないといけない」という人たちはどう考えているのかも気になります。

まさか、印鑑についてはめんどくさいからやめるべきなんて言っているとしたらダブルスタンダードですから。

一方で、印鑑はセキュリティだと言う人もいます。

欧米の方と違い日本では自分のサインを練習している習慣はありません。書くペンや紙にによって筆跡も違うでしょう。

実印を役所に登録しておくことで、実印を押した書類はあなたの意思表示であるということを証明してくれます。

印鑑なんて同じものを作るのは簡単だろという声が聞こえてきそうですが、少なくともあなたのサインを真似するよりは難しいと思います。

つまり、アナログな印鑑もセキュリティという面では一役買っているという見方もできるという話です。

デジタル手続き法案のキモは正しく運用ができるかどうか

誰でも正しく届出や申請できているわけではない

オンライン手続きが円滑にいくためには、届出や申請の内容に不備がないことが大切です。

なぜなら、届出や申請に不備があれば結果として役所に出向かなければならないことになるからです。

実際私が市役所に勤務しているときの経験では、わからないところを空白だったり、適当に記載している申請などは不備のある届出や申請は山ほどありました。
そのため、対面で聞き取りをしながら一緒に埋めていくということが多かったです。

引っ越しによる転出や転入ひとつとっても、簡単だと思っている人が多いですが、世の中にはいろいろな人がいます。

会社勤めや単身者にとって、転入転出はわずらわしいだけのものかもしれませんが、お子さんや高齢者の親御さんと同居している方にとっては、転入時の世帯をどうするのか、他の制度に影響が出るのかなど考えることは多いです。

そんな方は窓口で職員に相談したり、他の窓口に確認にいったりすることでトータルに解決した方が良いことも多いです。

所得税など申告主義のものであれば提出することが目的なので、本人が良ければ間違った内容であってもそのまま処理が進むことも多くあるでしょう。

しかし、社会保障関係のものなら受けられたはずのサービスを受けられないなど、不利益を受ける可能性があります。

私自身も市役所に勤務した経験がなければ感じることはなかったと思いますが、本当にいろんな方がいらっしゃいます。

あなたの普通は普通ではないことも沢山あるかもしれません。

窓口でのサポートがあった方が、より良いサービスを受けられる可能性があります

自治体職員の負担が激増するかもしれない

オンライン手続きについて地方公共団体は努力義務だということですが、仮に地方公共団体において積極的にオンライン申請を実施した場合、職員が対応できない可能性があります。

窓口での今までとおりの業務に加えて、オンライン手続きについても対応しなければならないからです。

従来からの書類での提出が極端に減って、ほとんどがオンライン手続きに移行して、さらに届出内容が軽微なものなら職員・市民双方にとって利便性は上がると思います。

しかし、マイナンバー制度実施後はというと、窓口での対応以外に新たなシステムがそれほど便利なものではなく、また、申請内容の不備に対して職員が電話をかけるということが増えた部署もありました。

申請者に電話をしても時間によっては出れないこともありますから、その結果処理は止まってしまうことになります。

また、自治体規模によっても相当違ってくるはずです。

同じ業務でも担当する職員の人数には大きな違いがありますし、小さな自治体ではひとりでさまざまな法律に関する処理をしなければなりません。

そのためどうしても知識が広く浅くなってしまうはずです。

しかし、マイナンバー制度が始まったことで、簡単な手続きひとつとっても法的根拠をしっかりと身につけないとシステムを使うことができなかったり、他の役所との情報連携ができないなどということが出てきて、実際にはパニックになってしまったということもあります。

しかし、ひとりの人間が広範囲の法令を熟知して対応していくというのはかなり難しいことです。

それによって、最終的には市民の方へ迷惑をかける結果になることも多く発生するはずです。

マイナンバー制度開始時の状況を知っている人なら、地方公共団体が積極的にオンライン手続きを行わないことは容易に想像できるはずです。

一番身近な地方公共団体でオンライン手続きができない可能性が高いですね

マイナンバーカードの適切な管理が必須

国が大々的に始めたマイナンバー制度ですが、その中にマイナンバーカードというものがあります。

マイナンバーカードには、2種類の電子署名が入っていて、あなたを特定するものと、インターネット上での実印にあたるようなものが入っています。

官民それぞれのサービスにマイナンバーカードを絡めていきたいという思惑とは程遠く、平成30年7月時点のカード交付数は人口に対して10%台と低いです。

また、クレジットカードなどでもそうですが、カードの扱いによっては磁気が読み取れなくなったりということも多くあります。

実際に住基カードで手続きをしようとしたけれど、時期が読めずにできなかったということも多くありました。

もし、マイナンバーカードで同じことが起きれば、カードの再発行に数週間必要になったり、窓口に行かなければならないなどが必要になります。

官民を含む多くの手続きをマイナンバーカード1枚に集約することが利便性向上につながるとは言えないというのも現実です。

私自身、保有しているマイナンバーカードは持ち歩くことはせずに役所で手続きをしたり、税務申告をするとき以外は持ち歩くことはありません。

私が市役所に勤務しているときも、高齢者の方には「使うときだけ持ってくれば良いから、普段は大切に保管しておいてください」とお伝えしていました。

持ち歩いて紛失すると、再発行するためには警察に届け出たり、再度申請が必要だったりと持ち運ぶリスクが大きいからです。

マイナンバー制度開始時のシステムトラブルがニュースになっていたので、そのあたりも心配ですね

役所の手続きをデジタル化するにはまずは手続きの簡略化が先

ここまでで、私が役所のデジタル化に反対していると感じた方も多いと思いますが、そんなことはありません。

役所にも市民にとっても利便性が上がるのであればとても素晴らしいことだと思います。

しかし、現状では先にもお伝えしたとおり双方にとって利便性が下がる可能性をはらんでいます。

役所のデジタル化を進めるためには、まずいろんな制度をもっとシンプルにして、必要な情報についても最小限にするような法改正が必要です。

手続きが十分に簡単になれば、誰でもオンラインで不備のない申請ができるはずです。

そうなればとてもスピーディに進んでいくはずです。

しかし現実には、社会問題に対して手当てするために法改正して制度が複雑になってしまっていることが多くあります。

オンライン行政を進めるのであれば本来は「小さな政府」を目指すべきで、今のように「大きな政府」になっていっては実現できないと思います。
どちらが優先事項なのかは、各国の事情にもよりますから一律に答えを出すことはできませんが、少なくとも日本が遅れているという表現は全く的を得ていないと思います。

そもそも書類手続きがもっと簡単なら、オンライン化も簡単にできるかもしれませんね




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